2006年10月28日

散文の断片「暗闇の絵の話」

とある世界で一人の人は肩に鳥を乗せて旅をしていました。
日も暮れてきた頃、ある家の門をたたきました。
一晩泊めてもらおうと考えていました。

ドアから一人の老人が出てきました。
「何かようですか?」
「旅のものです。もしよろしかったら、一晩泊めていただきたいのですが」
「それはそれは、どうぞお入りください」
そう言われ、その人は老人の家に入りました。

「旅の方がここらを訪れるのも珍しい。なぜ旅をしていおるのだい?」
その人は、鳥が手紙を届けているのを助けていることを言いました。
「ですので、これは自分の旅ではないのです」

「何を言いますか、それは立派な旅ですよ。今回の目的地はあなたにとって意味はないかもしれませんが、歩いていることは意味がありますよ」

廊下には黒い感じの絵がたくさん飾られていました。
年老いた人が暗闇で立ちすくむ絵、暗闇の中で不気味な枯れた花、暗闇の中で古ぼけた家具・・・。
全てが暗闇の絵でした。
それらを見ていると、ぞっとしました。

「どうしましたか?」
「いや、ずいぶんと衝撃的な絵ですね。なにか苦しみのようなものを感じます」
「陰気な絵です。もうこういう絵しか描けないのです」

旅人は部屋に通され、疲れもあってぐっすりと眠りにつきました。
その夜、ふと目が覚めました。
廊下からは足音がしました。
その人はおそるおそる、廊下に出ました。
窓からは月明かりが差していました。
月明かりの中、さっきまで暗闇だった絵が変化しているのに気がつきました。
仲のよさそうな男女が描かれた明るい絵、美しい花畑の絵、居心地のよさそうな椅子の絵・・・。
暗闇の絵の下には、明るい世界が隠されていたのでした。
逆に言えば、明るい世界は暗闇に塗りつぶされていました。
「きれいな絵だな。本当はきれいな絵なんだ」と旅人は思いました。

その絵の前には家の主が立っていました。
「やや、旅人さん。いかがしました?」
「いえ、少し廊下で音がしたもので」
「すみません。起こしてしまいましたか」
「いえいえ、それよりこの絵はすごいですね。月明かりで変わるのですね」
「月明かりでしか変わることは出来ないのだよ。太陽の光は強くて恐ろしい」

いつの間にか、肩に鳥がとまっていました。
鳥は少し悲しそうな目をしているように感じました。
「この絵は美しいですね」
「それはありがとう。でも、美しさは時に刃になるんだよ。時に過去の美しさはね」
「過去の美しさ?」
「そう、過去の美しさに目を奪われては未来はないのだよ。でも過去を塗りつぶしてもあまり意味はなかった」
そういうと、老人は黙って自分の部屋へと戻っていきました。
その空気はどこか冷たさを感じました。
旅人は肩の鳥の温かさに救われているように感じました。

朝が訪れました。
廊下の絵は暗闇の絵でした。
鳥を肩に乗せた旅人は老人に礼を言い、再び出発しました。
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2006年10月23日

散文の断片「断崖絶壁にたたずむ人」

ある青い空の下での出来事です。
一人の旅人と一頭の馬が旅をしていました。
ある時、断崖絶壁にたどり着きました。
谷底には深い深い闇が広がっていました。
「うわー、こいつはすごいね!どうするの?」
「ここらに橋がかかっているはずなんだけど」

少し谷沿いに進むと、断崖絶壁にたたずむ一人の人がいました
「あそこに人がいる。この辺に橋がないか聞いてみよう」
旅人は声をかけました。
「こんにちは」
その人は少しびくついたかのように見えました。そして旅人を振り向きました。
その顔は頬がこけて宙に浮いた目をしていました。
「・・・こんにちは。何か」

「この辺りに橋はありませんか?」
「橋ですか・・・。昔のことですが、橋があるということは聞いたことがあります。だけど、どの方向にあるのか記憶は曖昧ですし、今はもうないかもしれません」
「そうなのですか。少なくとも、昔聴いた話では橋はあったのですね?」
「まぁ、そういうことになります。すみません、何の役にも立てずに」
「いえいえ。ところで、あなたはここで何をしていたのですか?」
「・・・ここを飛び降りようとしていました」
旅人と馬は絶句しました。

「もしよかったら、その理由をお聞かせ願いませんか?通りすがりの者ですから気楽に」
その人は少し考え込みましたが、
「そうですね。どうせ自分は死ぬのです。最後にあなたに話を聞いてもらいたいと思います」
と言いました。
それを聞いて馬は、
「あーあ。やっかいなことにならないといいけど」
と独り言を言いました。

「これまで、誰にも本音を悟られないように生きてきました。なぜ、そんな生き方になってしまったのか、はっきりとは分かりません。
ある時、とても信頼できる人と出会いました。その人にだったら、自分を分かってもらえると思いました。
そして、死ぬような想いで心を開きました。これまで心を閉ざして生きてきたので、本当に死ぬ思いでした。けれども、その開いた心を相手にせせら笑われました」

「・・・その後も何人か信頼できそうな人と出会いました。だけど、いざ心を開いて話すと無視されたり、聞いているふりだけされたり、その時は真剣な姿を見せますが2度と話を聞いてくれなくなった人もいました。
誰かに受け入れてもらえればどんなにいいだろうと思います。だけど、それは難しいことですね」
「そしてこの長く深い谷にたどり着きました。この谷の闇を見ていて、誰にも受け入れてもらえない自分はこの谷底の闇に消えたほうがいいんだと思いました」
旅人は時々うなずきながら、ほぼ黙って聞いていました。
「・・・やっぱ、軽蔑しますよね。死にたいと思う人間を。無価値な人間であると」

「あなたが死にたいという気持ちを、通りすがりの自分がとやかく言う資格はないのかもしれません。生きていればなんとかなるなんて生易しい言葉もあなたには不要でしょう。生きていてなんともならなかったから、ここにいるのでしょう。
でも、あなたはそれだけ苦しんでいるのだから、同じ苦しみを持った人に優しくできるかもしれない。苦しんだことのない人間に苦しんでいる人間の気持ちは分からないのですよ。でも、あなたにはそれが分かる。そしたら、あなたは価値があるといえるのではないでしょうか?」

「・・・そういうとらえ方もありますね。ところで旅人さんは、なぜ旅をしているのですか?一人がいいからですか?」

「裏切られたことはたくさんあるし、心の底から傷つくこともありました。それでも、誰かと生きることが出来ればいいと思って旅をしています。決して一人を望んでいるのではありません。
誰かに分かってもらいたいとは思います。分かってもらえないことはとても苦しい。でも分かってもらえなくても生きていたいし、旅を続けたいんです」

「そうなのですか・・・」
その人はどこか遠くを見やるようでした。
それは谷底を見ているようであり、谷の向こうの大地を見ているようでもありました。

「そういえば旅人さん。あなたは橋をお探しでしたね」
「ええ、そうです」
「わたくしもお手伝いいたしましょう。この辺りについては詳しいつもりですので」
「ええ!いいのですか?」
「別にいいですよ。死ぬことはいつでもできますが、あなたと橋を探すことは今しかできませんから」
その時のその人の顔は笑っていました。だけど、その笑顔は少し歪んでもいました。
「やれやれ、どうなることやら・・・」
馬はぼそりと独り言を言いました。

旅人はその人に言いました。
「ところでさっきの話、まだまだ話し足りないんじゃないですか?」
するとその人は驚いたように言いました。
「・・・そうです。まだ言いたいことのこれっぽっちも言っていない気がします」

見渡す限り谷は続いていて、橋は見当たりません。
その中を二人の人と一頭の馬は橋を探しに出発しました。
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2006年10月22日

散文の断片「行くべき場所まで飛べない鳥」

しばらくの間、その人は鳥の看病をしました
これまでぼんやりと過ごしてきたその人は、久しぶりにはっきりとした行動をしました
この町に来て以来、特に目的もなく過ごしてきたのでした
喜びも悲しみもこれといって感じてはいませんでした
だけど、それが少し変わりました
その人にとって鳥が元気になることが望みとなりました
だけど飛べないという事実は心にひっかかたままでした

鳥はみるみる元気になっていきました
その元気な姿を見ていると、本当は飛べるのではないかと思えました
鳥は時々ぼろぼろの翼をバタバタさせて飛ぼうとします
一生懸命、飛ぼうとしています
だけどもう飛べません
元気なのに飛ぶことは出来ません

その人は申し訳なさそうに言いました
「ごめんね。君はもう飛べないんだよ・・・」
それでも必死に鳥は羽をばたつかせています
それを見ていて、とても悲しくなりました
自分のしたことは間違っていたのではないかと、思いはじめました

しばらく羽をばたつかせていましたが、突然やめました
すると、ひょこひょこと外へ向かって歩き出しました
「おいおい、外は危ないよ」
そう独り言を言いながら、鳥を手のひらで包みました
鳥はとても温かく感じました
でもどこか震えていました

鳥は足についている手紙の入った筒を何度もつつきました
その人は鳥が「この手紙は必ず届けなくちゃいけないんだ」と言っているような気がしました
そのときの鳥の目は輝いていました
飛ぶことはできない鳥でも輝いていました
そして、また歩き出そうとしました

その姿を見てその人は肩に鳥をのせました
「手紙を届けたいんだよね。一緒に歩いていこう」
その人は鳥に向かって言いました
すると、鳥はさえずりました
その人はかすかに笑って、鳥と共に歩き出しました
posted by のっち at 18:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月15日

散文の断片「鳥を拾った人」

道の上に一羽の鳥が倒れていました
それを通りすがりの人が見つけました
「どうしたんだろう?死んでるのかな?」
その人は恐る恐るその鳥に手を触れてみました
とても暖かさを感じました、でもどこか弱々しさも感じました
その人は大事そうにその鳥を抱えて、近くのお医者さんのところへ行きました

「どうしましたか?」
「道端に鳥が倒れていたもので」
「ほー、どれどれ」
そういいながら医者は診察を始めました
「うん。命に別状はないよ。数日安静にすれば元気になる」
「本当ですか。それはよかった」
「しかしね・・・」
「しかし?」
「もうこの鳥は飛べないよ」
「飛べない?」
「これを見たまえ」
医者は翼を広げました
羽はぼろぼろで見るのも耐え難いほどひどいものでした

「どうにかすることはできませんか?」
「こればかりは無理だね。どうすることもできないよ」
その人はひどく落胆しました
「・・・飛べない鳥を助けてしまった」
「ん?何か言ったかな?」
「いえ、何でもありません。独り言です」
と、その人は言いました
医者はその声にあまり気にしないそぶりで、鳥の診察を続けました
「ん?これは何だ?」
医者は鳥に何かを見つけました
鳥の足には小さな筒がありました
その筒を開けると小さく丸まった紙が入っていました
「これは、伝書鳩だな」
「伝書鳩?」
「そう、これで遠くにいる人と手紙のやり取りをするんだよ。この鳥は鳩ではないけどね」
「そんなものがあるのですか?メールや郵便しか知りませんでした」
「ははは。郵便制度がなかったりメールのできない環境にいる人はたくさんいるんだよ」
医者はからかうように言いました

「やれやれ、この手紙を待っている人は困るだろうに」
「何か手がかりはありませんか?」
「いや、手紙を見ても何も分からない。地名や名前も書いていないからね」
そういうと、医者は手紙を筒に戻し鳥につけました

「それにしても、道端に倒れているなんて、君みたいだね」
「そうでしたね。あの時はお世話になりました」
「なーに。元気そうで何よりだよ」
「でも、この鳥は目的があるのに倒れてしまったのですね」
その人は昔を思い出すような声で言いました
「君はこのままこの町にいるのかい?」
「分かりません。まずは、この拾った鳥を元気にしたいと思います」
そういうと、その人は医者の元を後にしました

帰り道、お店で鳥かごを探しました
いろいろな形、いろいろな色の鳥かごがありました
シンプルなもの、きらびやかなもの、自然な感じのもの
でも、鳥かごは鳥かごに過ぎません
鳥にとってはどんなデザインであろうが、閉じ込められる場所に違いありませんでした
しかも、飛べない鳥をわざわざ鳥かごに入れることが滑稽に感じてきました
その人は医者から言われた鳥のえさだけを買って、家に帰りました
そして飛べない鳥を助けたことは正しかったのかと思いながら、鳥の看病を始めました
posted by のっち at 14:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月09日

詩の断片のイメージ「月明かり」

微かな月の光にさえ手をかざしていた
月の光はどこか冷たい
毛布に包まって冷たさを忘れようとする
深い海のような夜の中で
町の光は無意味に感じる

深い海から眺める光はどこか遠い
今にも消えてしまいそうな小さな光
月明かりは弱弱しい
消えそうな命のような静かな光

窓から月明かりが差し込んでくる
それを遮るようにカーテンを閉める
窓は開いたままで風がカーテンを揺らしている
ただ虫の音が響いている
真っ暗な部屋には何があるのか見えない
何もないのかもしれない
それもありだと自分に言ってみる

ゆれるカーテンからは月の光が幽かに入ってくる
わずかにもれてくる光
その光を暖かいものだと感じた
もう一度、光を受けてみたいと思った
光をさえぎっていたカーテンをあけてみた
部屋の中はやわらかい光に包まれた
風は優しくて虫の音を伝えている

窓の外の月を眺めてみる
この月の下で人は眠りに就く
誰かも月を眺めているかもしれない
月明かりの町はとても静か
静かに光る月明かりの中、眠りに就いた
posted by のっち at 22:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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