2006年12月17日

散文の断片「暗闇さん」

冷たい雨の降りしきる中、一人の人と一頭の馬が旅をしていました。
「ひどい雨だ。冷たくて凍えそうだよ」
「どこか雨をしのげる場所があるといいのだけど・・・」

そう言いながら進んでいくと、洞窟が見えてきました。
「ちょうどよかった。洞窟であまやどりをしよう」

旅人と馬は洞窟に入りました。
洞窟の中は真っ暗で何も見えません。
雨音だけが洞窟の中に響いています。
真っ暗では身動きが取れないので、旅人はランプを灯しました。

洞窟には小さな明かりが灯されました。
「早く雨やまないかな」
「そうだね、止まないかな」
雨音を聞いていると、しばらくはやみそうにありません・・・。

少しするとどこからか、人の駆ける音が聞こえてきました。
「なんか音がする。だれかいるのかな?」
駆け音はだんだんと大きくなってきました。
そして、大きな声が聞こえました。
「灯りは消して!お願いだから早く消して!!」
ランプを声のする方に向けると目の前には小さな子供が立っていました。
旅人は言われるがまま、明かりを消しました。
「あーあ、せっかくの明かりを消しちゃった」
馬は言いました。
それを聞いた子供は、馬の方をにらみました。

旅人は聞きました。
「ねぇ、君。どうして明かりを消して欲しかったんだい?」
小さな子供は言いました。
「だって、暗闇さんが死んじゃうから」
「暗闇さん?」
「そう、暗闇さん。すぐそこにいるよ」
旅人は辺りを見回しました。ですが、真っ暗で何も見えません。
「・・・何も見えないけど」
「見えないの?あぁ、見えないのかも。父さんも母さんも見えないって言ってたから」

「君には暗闇さんが見えるんだ」
「そうだよ。暗闇さんとお話するの。暗闇さんはとってもかわいそうなの」
「どうしてだい?」
「だって、暗闇さんは一生懸命生きてるんだよ。だけど、それがたくさんの人を悲しませてしまうんだって。
それが苦しくって苦しくって仕方がないんだって・・・」
小さな子供は悲しそうな声で言いました。

「暗闇さんはいつも一人ぼっちなんだ。誰に見てもらうこともないし、誰からも気にしてもらえないんだ。
「だから暗闇さんとお友達になったんだ」
小さな子供は嬉しそうに言いました。
「そうなんだ。きっと暗闇さんは喜んでいるよね」
「うん。そうだといいなぁ」
小さな子供はにっこりと笑いました。
その時、洞窟の中は少し温かく感じました。
気のせいかもしれませんが、確かに温かく感じました。

洞窟の外では雨は相変わらず降り続いています。
ただ変わっていくのは、だんだんと暗くなっていくことでした。
「そろそろお家に帰らなくて大丈夫かい?」
「そろそろ帰らないと・・・。旅人さん、明日もここにいる?」
「分からない。雨のままならいるかもしれないし、晴れていたら出発しているかもしれない」
「そうなんだ・・・。明日も会えるといいな。バイバイ」
そう言って、小さな子供はお家へと帰りました。

小さな子供がいなくなると、馬は言いました。
「なんなのだろうね。暗闇さんって」
「そうだね。少なくともいえるのは、優しい生き物だってことだよ」
「でも人を悲しませるのでしょう?」
「いや、きっとそれは違うのだよ。悲しい出来事があって暗闇さんがやってくるだけで、暗闇さんが悲しみの原因ではないよ。
暗闇さんは悲しいことを見えなくすることで優しく包むことができるんだよ。光にはそれができない・・・。」
旅人は心の中で(きっとそうだよ暗闇さん。だから、安心して大丈夫だよ)と言いました。
「いつでも悲しみに向き合うことのできる人間なんていないんだよ」
馬は「ふむふむ」と頷きながら聞いていました。

小さな子供がいなくても、旅人はランプを使おうとはしませんでした。
真っ暗な洞窟の中には旅人と馬の声が響いています。
暗闇さんはその声を聞いていたのかもしれません。
洞窟の外は闇で包まれていました・・・。
posted by のっち at 07:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月14日

散文の断片「花畑の住人」

どこかの道なき道を一人の人と一頭の馬は旅をしていました。
あるとき、美しい花畑にたどり着きました。
「うわー、きれいだな」
その人は思わず声を上げました。
「うん、きれい。これまで見た花畑の中でもかなりの上位だよ」
と馬は言いました。

花畑を進んでいくと、一つの小さな家がありました。
その家の前では一人の人が何やら作業をしていました。
「こんにちは」
と旅人は声をかけました。
その人は少し驚いたような様子で、
「こんにちは。こんな場所に人が訪れるなんて珍しい」
と答えました。

旅人は聞きました。
「あなたはここに住んでいるのですか?」
「ええそうですよ。花畑で静かに揺れる花を見ながら生きていくのが夢だったのです」
「へー、面白い夢ですね」
「そうですね。変わった夢かもしれません」
「いつからここに住んでいるのですか?」
「そうですね。ずいぶんと昔のような気がします」
「一人なのですか?」
「ええ、一人です。本当は誰かいることに越したことはないのですが・・・。でも、夢のような場所に出会えて嬉しく思います」

「じゃ、今は幸せってことだ」
馬は嬉しそうに言いました。
すると、その人は少し伏目がちに言いました。
「いえ、その、実はそうではないのです」
「どういうこと?」
「本当は花にこちらを向いてもらいたいのですが・・・」
その人は悲しい声で言いました。
「花は違う方を向いているのです。こちらを振り向いてはくれません。たくさん花を想っているのに通じることはありません」
よく見ると、花はその人の家の方を向いてはいませんでした。
「ふーん、花に対する想いは一方通行だね。こんなに近くにいるのにね」
馬は言いました。
「・・・ええ」
短くその人は答えました。
花畑を愛おしいような悲しいような、そんな目で見つめていました。

柔らかい風が吹きました。
花々は静かに揺れました。

「でも、あなたはこの花が好きなのですね」
旅人は優しく聞きました。
「・・・ええ」
短くその人は答えました。
「いつか、あなたのことを見てくれると信じているのですか」
「ええ信じています。でもこちらを向いてくれなくても構いません。そんな気持ちです」

旅人の目に映る花は、どこか幸せそうでした。
それは、花畑に住む人がそうさせているような気がしました。
でも、これは旅人が勝手に感じたに過ぎません。
本当のところは何も分かりません。
旅人に出来たのは、花があの人のことを見てくれるよう願うだけでした。

「それでは、そろそろ行こうと思います」
旅人は言います。
「そうですか、お元気で」
花畑の住人は答えました。

そうして、旅人と馬は出発しました。
花畑の住人が見えなくなって、馬は言いました。
「人ってみかえりを求める人ばかりと思っていたけど、そうでない人もいるんだね」
「そうだね。でも、みかえりって言うのは言葉が悪いけど、少しでも返ってくるものがないと、不安にもなるし寂しくもなるよ」
「へー」
「嫉妬や怒りだって、人の立派な感情さ。ありすぎると困るけど、そういうものを持っているのが自然だよ」
「じゃあ、あの人はみかえりを求めないから幸せなのかな?」
「いや、それは違うと思う。人は心の底から望むものになかなか出会えることはない。出会えたとしても、それが手に入るとは限らない。だから、あの人は幸せなのだと思うよ。だって、心から望むものと出会えているんだから」
「ほーほー、なるほど」
「・・・ちゃんと聞いてるの?」
「聞いてるよ、聞いてますとも。ねー、人間って大変だね〜。君は心から望むものっていうのに出会えたの?」
「ノーコメント」
「なんだよ、教えてくれたっていいじゃん。ケチ・・・」
「はいはい、まぁいいさ」

だんだんと花畑は小さくなっていきます。
遠ざかる花畑を背にしながら、馬は言いました。
「ねぇねぇ、この旅は一方通行かな?」
「どうして?」
「いや、なんとなく」
「それは分からない。時々不安で仕方なくなるけど、進むしかないよ」
「ふーん。進むしかないんだ。たとえ一方通行でも?」
「そう、一方通行でも。行けるとこまでは行くつもりだよ」
「そっか。とにかく言いたいのは、あまりこき使わないでくれよ」
「分かってるよ。大丈夫」

道なき道は果てしなく続いているように思えます。
いろんな感情を抱きながら、旅人の旅は続くのでした。

posted by のっち at 23:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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