2007年06月10日

散文の断片「降り続く雨」

とある世界では雨が降っています。
どこまで見渡しても何もない草原です。
そこに1つの木があって、その下には1つのテントがありました。
テントの外には馬が一頭おりました。
テントの中から旅人のような人が出てきました。
馬はその人に話しかけました。

「今日も雨だね」
「そうだね、今日も雨だね」
「最近、雨ばかりじゃない?」
「そうだね、旅を続けてからずっと雨ばかり降っていたような気がするよ」
「ふーん。あれ、もう一人は?」
「ああ、寝ているよ」

テントの中には、旅人には見えない人がすやすやと寝ていました。
その人を見ながら、馬はいいました。

「この人はどんな人生を歩んできたのだろうね?」
「さあね、でも何かがあってこの人の人生は壊れてしまったような気がするよ」
「へぇ、人生を壊すものってなんだい?」
「それは、人間だよ」
「ほー、人間って怖いね。人間じゃなくてよかったよ」

雨はザアザア降り続いています。

「君の人生はどうなのだい、壊れてしまったのかい?」
「壊れているのかどうかすら分からないよ」
「それって重症じゃない?」
「さあね、壊れたところで生きていくことはできるさ」
「ふーん、そんな人生はきつくはないのかい?」
「きついだけの人生、それもまた人生さ」
「まったく君って奴は・・・」

テントの中で寝ている人が寝返りをうちました。

「この人はどうして死にたいと思っているのだろう?」
「言葉で全てを説明できるものではないと思うよ」
「じゃ、分からないね」
「それは少し違うよ。言葉を発する側は、自分のことを限られた言葉で伝える。あとは受け取った相手がその言葉でその人のことを想像することによって相手を分かることが大切なのだよ。人間社会で生きていくにはね」
「へー、なんだか分かりにくいけど、旅人の君には必要のないことかもね」
「別になくてもいいけど、あったほうが人間を理解できる。この想像力の欠如がいろんな悲しいことの原因なのさ」

木からは時々、雨の雫が落ちてきます。

「この人は君のことを信頼したようだけど、なんでだろ?」
「それはこっちが聞きたいくらいさ」
「まぁ、疑いながらついてこられても困るけど」
「普通の人間だったら、世界中のだれか一人くらい信じることのできる人間がいないと、生きていくのが嫌になると思うよ」
「別に誰でもいいけど、たまたま目の前にいたのが君だった・・・みたいな?」
「まっ、そんなとこだろうね」
「それって、ずいぶん曲がった見方じゃない?」
「曲がっているのは分かっているよ」
「それにしても、今までいろんな人間に飼われて思ったんだけど、人間ってなんでそんな簡単に裏切ったりするの?」
「裏切って他人を傷つけることよりも、裏切って得られるものの方がその人にとって多いと思えた時、人は裏切るのさ」
「裏切られたほうはたまったもんじゃないね」
「まっ、社会に生きていくのであれば、仕方のないことだよ」
「それでも、人はだれかを信じようとするんだ」
「それは人によるね。強い人間は裏切られても負けないし、弱い人間は自分を守るため誰にも心を開かなくなる」
「心を開かなくなるの?」
「そう、たぶんこの人もそうなんじゃないのかな。何度も理不尽に裏切られていると、次第に信じるという行為が怖くなるのもさ。でも、他人を信じる怖さを乗り越えたとき、本当の強さがうまれるのだと思うよ」
「そんな人に君は信じられてしまったわけだ」
「だから困るんだよ、そんな人の一生に関わるようなことに責任持てないよ。たまたま旅の途中で出会った人に対して」
「何気にひどいこと言うね。まっ、それも人生なのではないかい?」
「うまくいかないものだね。生きていくと負担ばかりが増えていく・・・。いや、そんな考え方じゃだめだな。人との出会いはかけがいのないことだから、きっと何か自分の力になると信じたい。それにしても、そろそろまともな人生を歩みたいもんだ」
「君にまともな人生は似合わないよ」
「それはどういう意味だい?」
「今までずいぶんひどい目にあったりないがしろにされた君の人生さ。そういう意味でせっかくいろんな経験をしたんだから、まともな人生を歩んじゃもったいない」
「誰だっていろんな経験をしているさ。自分だけが特別だなんてみじんも思っちゃいない・・・」
「まぁ、馬の目から見た参考適度にとどめてくださいな」

テントで寝ていた人が目を覚ましたようです。
身体を起こしてテントの外に出ました。

「やや、これは旅人さんと馬さん。おはようございます」
「おはようございます」
「おはよう」
「今日もひどい雨ですね」
「そうですね、雨ですね」
「いやー、最近雨ばっかだね」
「この雨はいつまで降り続けるのでしょう?」
「きっと太陽が出たらやみますよ」
「ははは、旅人さんらしい言葉ですね」
「ねぇねぇ、この雨の中出発するの?たまには休みにしようよ」
「雨の中でも出発するよ。君には期待しているよ」
「まったく、馬使いの荒いこと」

雨の降る中、2人と1頭は出発の準備を始めました。
雨がいつやむのか分からぬまま、旅を続けるのでした。
posted by のっち at 21:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年06月05日

詩の断片「遠い月」

草むらから見えるは月明かり
遥か遠くからの静かな光
真夜中の目は幻想
届きそうで
手を伸ばして
つかんでみても何もなく
手のひらは傷だらけで
月明かりが冷たくしみる

光は遠のいていく
こんな夜は何をしよう?
一人分からず途方に暮れる
ただ眠りを待つだけ
気がつけば光を失ったように
気がつけば朝になるのだろうか?

朝が来るまでできること
やらなければならないこと
考えなければならないこと
それらをやれば
気がつくと朝になっているさ
気分よく光を迎えられるように
闇から逃げはしない
今を捨てはしない
そうできればいい
そして、そうしたい
posted by のっち at 22:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年06月03日

詩の断片「古びた神社」

行くあても無く電車に乗る
窓の外をぼんやりと眺めている

自転車で走っている子供が見える
公園のベンチに座っている老人が見える
広場で遊んでいる親子が見える
空は太陽が輝いて、どこまでも青い

この電車はどこに向かうのだろう?
どこにも向かっていないのかもしれない
でも、どこかでは降りなければならない
降りる場所は自分で決めなければならない
それは当たり前のこと

とある駅で降りてみる
何があるのか分からない
何があるのか分からないから降りてみる
何かは自分で見つけるんだ

見知らぬ駅、見知らぬ町並み
ただ、感覚だけを頼りに歩いてみる
いろんな店があって、いろんな建物があって、いろんな人を通り過ぎていく
狭い道を入っていって、人の姿は見えなくなって、車の音も聞こえなくなる

薄暗い階段が目に入った
周りは木々に囲まれていて、太陽の光が届かない
そこを登っていくと、古びた神社があった
いったいどのくらい昔からあるのだろう?
どのくらいの人が、この神社を訪れたのだろう?
その人は喜びに満ちていたのだろうか、悲しみに暮れていたのだろうか?
ただ静かな空間で、昔から変わらない空気を感じた。

自分は目をつぶって、思い浮かべてみる
違う時代にこの神社を訪れた人、その人と同じ空間に自分は立つ
その中には、この世にもう存在していない人も多いだろう
でも、その人の訪れた神社はまだこの世界に存在している
自分の目の前に存在している
どこかで鳥が静かに鳴いていた

神社に背を向けて、階段を降りていく
その一歩一歩は確かなもの
この世界に自分が存在していること
それは確かなことなんだ

階段を降りきって、そこに道がいくつかある
どこの町かも分からないのに、どの道に何があるのか分からない
でも、自分の選んだ道を胸を張って歩く
その道で目に見えるものを、その道の喜びを、その道の悲しみを精一杯感じていく
そして、間違っていると気がついたときには、立ち止まり、引く勇気を持つ
それが生きていくことなんだと感じた
posted by のっち at 16:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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