2006年02月17日

遠藤周作「海と毒薬」

海と毒薬.jpg

人それぞれにはそれぞれの歴史がある。そして、人それぞれにそれぞれの視点がある。
この物語の中心的な出来事は戦争中に行われた人体実験である。
登場人物がそれぞれ特徴を持っていて、それぞれの視点でその人体実験について書かれている。

なんというか、刹那的である。
ただ、流されるまま事体が進行していく。
物語の中で、登場人物は考えることを途中でやめてしまう所が何箇所かある。
考えることを止めた時点で、人はただ流されるだけの存在になってしまうのだろう。

命の感覚の欠如を感じた。
その欠如にはとてつもない恐怖を感じた。
倫理観や良心の欠けた感覚。
そういった登場人物に対して寂しい感覚に襲われた。

この物語で命に対する倫理観は、自己のぼんやりとした人生の中、組織の力の前にいとも簡単に崩れてしまう。
それは日本人だからであろうか?キリストのような確固たる神がいないからであろうか?
自分は日本人観・宗教観に関しては疎いのだが、果たしてどうなのか・・・?

日本人は様々なものに神を見出してきた民族であると思う。
例えば「お日様」とか「ご神木様」とか。
また、世間というものを気にするのも日本人の特徴であるように思われる。
そういった、様々なものの中で築き上げられていく倫理観は、一つの神を信じる宗教の中で築き上げられた倫理観よりも弱い面があるのかもしれない。
日本人特有のあいまいさの所以もここにあるのかもしれない。

自分は日本人のあいまいさが寛容につながっていると勝手に感じているので、あいまいさは嫌いじゃないのだけどね。
もちろん大事な時には白黒つけるのは当然だけど。
それにしても、世の中が白黒や善悪や裏表といった2つで分けることが出来たらなんて楽なのだろうと思う。
人間っていうのは複雑で不規則でそんな2つなんかに分けられるものではない。
というか、物事を2つに分けるとき、その命題自体がおかしいことって多い気がするのだけどね。
命題が間違っていたら、山手線のようにぐるぐると中心の周りを回るだけでいくら考えても答えは出ないさ・・・。

遠藤周作は初めてだったがいいね。
深いのだがその深さがいい!
posted by のっち at 10:18| Comment(6) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。
遠藤周作の中では『満潮の時刻』を読んだことがあります。
高校がキリスト教だったので、その関係です。
生と死の間で、途方に暮れる感じが印象的で
その時の自分の感覚に、大いに触れた作品です。
『海と毒薬』も、機会があれば読んでみようと思います。
Posted by saco at 2006年02月17日 18:58
>sacoさん

こんにちは!
キリスト教の高校ですと、遠藤周作を読む機会があるのですか。
自分は普通高校で読む機会がなかったですね。何度か本屋で手に取ったことはあったのですけどね。
高校の頃に読んでいたら、また違った印象を受けたかもしれません。
「満潮の時刻」、興味ありますね。
ぜひ読んでみたいです。
Posted by のっち at 2006年02月17日 21:12
海と毒薬、良い作品ですよね。悲しみの歌はこの作品の続編なのですが、一転して読みやすい文体で書かれているので、好きです。遠藤は12歳頃にカトリックの洗礼を受け、1950年フランスへ留学。帰国後はキリスト教に関する作品を多く執筆しています。「イエスの生涯」「キリストの誕生」などが割と有名なのでは、と思います。
Posted by hide at 2006年02月17日 21:26
>hideさん

貸してくれてありがとう!読むことができてよかったと思える作品でした。
そうですね、遠藤はキリスト教に関する作品が多いですね。日本人作家にあまりいないタイプなので、とても貴重な存在だと思います。
悲しみの歌、読んでみるね。
Posted by のっち at 2006年02月17日 21:56
遠藤周作の「沈黙」読んだことあります。
本当、この人の世界は刹那的。
刹那的て表現が妙に当てはまる。
「海と毒薬」
良さそうって表現も変ですけど、
のっちさんの感想見てると読んでみたくなりました。
今度読みたいと思います。
Posted by ヤマタ at 2006年02月19日 13:38
>ヤマタさん

ヤマタさんは「沈黙」を読んだことがあるのですか。
こちらも、時間があるときに読んでみようかな、と思っています。
そうですね、刹那的ですね。
この独自の世界観がいいですね。
「海と毒薬」おすすめです。
Posted by のっち at 2006年02月19日 21:04
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