2007年01月14日

散文の断片「谷に架かる古い橋」

前回の話はこちら

断崖絶壁に沿って、二人の人と一頭の馬が橋を探していました。
一人は旅人で、もう一人は断崖絶壁で偶然出会った人でした。
「なかなか、見当たりませんね」
「そうですね、もしかしたら橋はないのかもしれません」

見渡す限り深い谷が続いています。
谷の向こう側に行く事が出来ません。

人間の二人はこんな会話をしていました。
「どうしても谷の向こう側へ行かれるのですか?」
「はい、行こうと考えています」
「そうですか。もしも谷の向こう側に不幸が待っていたらどうしますか?」
「うーん、そうですね。もともと不幸のほうが多いだろうと考えていますから、よほどのことでなければ大丈夫ですよ。ところで、橋が見つかったらあなたはどうしますか?」
「さあ、分かりません。あなたと別れた後、すぐに死ぬかもしれませんし、もしかしたら生きるかもしれません」
「なるほど・・・」

少しの間の後、馬が話してきました。
「ねーねー、まだ死にたいの〜?」
「馬さんはずいぶんとストレートですね。もうずいぶんとダメな人間になってしまいましたからねぇ」
「ダメな人間?どうしてダメになったの、失恋??」
「ははは!それも一つではあるよ。でも私は一度の出来事だけでダメになるほど弱くはないのですよ。だけど、ダメになりかけて立ち直ろうとする瞬間にまた事件が起こるのです。それを何度も繰り返してきました。これではどうしようもないよ」
「いわゆる、踏んだり蹴ったりって奴?」
「ははは、馬さん。その通りですよ。苦しむだけ苦しんで、何を得たのか分からないのですよ」
「何も得てないって富とか名声とか?」
「いやいや、そういうものではありませんよ。私は誰かと心で理解しあうことが人生だと思っていました。けれども生きてきて誰とも分かり合うことはできませんでした。そうやって人は死んでいくのかもしれませんね」
「ふーん。そうなんだ」

旅人はそんな会話を聞きながら谷の向こう側の大地を見ていました。
それはこちら側とあまり違いがないように思えました。

「あれ、あれって橋じゃない?」
見ると遠くに橋が見えました。
近づいてみると、ずいぶんと古ぼけた橋でした。
「ひゃーずいぶん古い橋だね。渡って壊れたりしないかな」
「うん、その危険はある。でも、この汚くてボロボロの橋が希望の橋なのだね」

旅人はもう一人の人に聞きました。
「どうしますか?この橋を渡りますか?」
「どうせ死ぬのなら橋を渡ってからでもいいですね」
もう一人の人はそう言うと、続けて言いました。
「じゃ、旅人さんと馬さんが先にお渡りください。荷物もあると橋が重さに耐えられないかもしれないので、私が運びますよ」
「そう言っていただけるのなら、お願いしてもよろしいですか」
「もちろんですよ」

まずは旅人と馬が橋を渡りました。
歩くたびに橋はゆれ、恐る恐る渡りました。
続いて、残っていた人も荷物を持って橋を渡ろうとしました。
しかし橋の真ん中で立ち止まってしまいました。
「あれ?どうしたの?」
断崖絶壁でたたずんでいた人は大粒の涙を流していました。
旅人は橋のいたるところがぎしぎしいっていて、もうすぐ崩れてしまうのに気がつきました。
「あぶない!早くしないと橋が崩れる!」
大声で旅人は言いました。
しかし、橋の真ん中から動こうとしません。
相変わらず泣いたままです。
「何かあったのですか?」
旅人は出来るだけ優しい声で言いました。
すると、橋の真ん中の人は答えました。
「思い出しました。この橋は大昔に私が作った橋でした。もともと私は谷の向こう側の人間でした。ですのでこの橋は谷の向こう側から渡るために作った橋でした・・・」
ここで静かに深呼吸をしました。
「・・・当時は希望の橋でした。しかし、今となっては禍をもたらした忌まわしい橋です。ここで橋とともに人生を終えるのも滑稽ですがふさわしいかもしれません」
少し皮肉をこめて、その人は言いました。
すると、旅人は言いました。
「別にあなたが死ぬのは勝手です。ですが、申し訳ないですけど荷物だけはこちらに運んでいただけないでしょうか?」
「うわー、冷たい言葉」
と馬は独り言を言いました。
橋の真ん中で立ち止まった人は泣きながら荷物を持って、橋を渡りました。
「旅人さん、これでいいでしょう。橋を渡れてよかったですね。では、私はこれで」
と戻りかけた瞬間、橋が崩れ落ちました。
あまりにもあっけなく、谷の闇に吸い込まれていきました。
それをどこかぼんやりとした目で戻ろうとした人は見ていました。
「・・・橋が崩れてしまった」
絶望と憎しみがこもっていますが、なぜか無感情に聞こえる声で、死のうとした人は言いました。

太陽は沈みかけていて、夕焼けが見えました。
空は真っ赤でした。
暗闇の迫った真っ赤な空でした。
「・・・あの時もこんな空でした」
「あの時?」
「橋を完成させて、橋を渡った時のことです」
「あの橋は、あなたがいつか戻るのを待っていたのではないですか?」
「ははは、御伽噺みたいなことを言いますね。そうであったなら面白いですが・・・。でも、あの頃とはもう何もかも変わってしまいました」

太陽は沈んでいきました。
その様子をしばらく眺めていました。
気がつくと星空が顔を出していました。
「星空がきれいですね。星空なんて久しぶりに見ました」
「これからどうしますか?」
「分かりません。でもなんかしばらく星空を眺めたいです。あなた達は?」
「もう夜ですし下手に動くのは危険です。ここらで野宿したいのですが、星を眺めるのに邪魔になりませんか?」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「それならよかったです」

旅人は荷物を出して野宿の準備を始めました。
もう一人の人は星空を眺めていました。
その真ん中で馬は眠そうにあくびをしてました。
posted by のっち at 17:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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