2007年04月15日

散文の断片「赤信号」

世界のどこかで、旅人は旅をしていました。
肩には飛べない翼を持つ鳥が止まっていました。
この日は太陽が出ていて気温もほどよく、旅をするにはこれ以上に無いくらい、いい天気でした。

道を進むと、一人の人が赤信号の前で立ち尽くしているのを見つけました。

「こんにちは」
「こんにちは。これはこれは、旅のお方かな?」
「はい、そんなところです。それにしても、こんな所に信号があるとは思いませんでした」
「ははは。この地域は意外なところに信号があるのですよ」

信号の前でしばらく待ちます。
しかし、信号が変わる気配はありません。

「この信号、なかなか変わりませんね。いっそのこと、破ってしまっていいんじゃないですか」
「あなたは旅人ですから、この地域のことを分からないのかもしれません。信号を破るのは、人生を踏み外すのに等しいのですよ」
「なるほど。この地域では信号はそんなにも意味があるものなのですか」
「ええ。信号を守っていれば、人生を外れることはありません」
「それにしても、この信号は長いですね。いつまで赤信号なのでしょう」
「分かりません。実はあなたが来るずいぶん前から待っているのですが、なかなか信号は変わりません」
「もしかして、壊れているとか・・・」
「いえいえ、そんなことは絶対にありません。信号は完璧なのです」

日はいつのまにか傾き、夕暮れを迎えていました。
オレンジ色の空が、無常にも闇を引き連れて来ます。

「うーむ。もう日が暮れてしまいますね。私は別の道を探そうと思います」
「そうですか。恐らく遠回りになりますが・・・。まぁ、旅人さんらしい選択ですね」
「あなたは待ち続けるのですか?」
「はい。それが人生ってものです」

旅人は赤信号を横目にその人と別れました。
そして、肩に止まった鳥に言いました。
「もし、君に空を飛べる翼があったなら、信号なんて気にせず空を飛ぶのかな?」
鳥は旅人の顔を見て、首をひねりました。
「まっ、飛べたとしても自由とは限らないか」
太陽は完全に沈み、空には少しずつ星が顔を出しました。
「近道をして人生のゴールに辿りつくよりも、遠回りをして途中で死んだほうが人生だと思うのだけどね」
肩に止まった鳥はきょとんとしています。
「赤信号・・・。あの人にとってあの赤信号は何を示していたのだろう。耐えて待て、道を変えろ、休憩せよ・・・あるいは何の意味もないのかもしれない・・・」
旅人は星空を見ながら、そんな独り言をつぶやくのでした。
「人生か・・・。とりあえず、うちらは今日の宿を探そう」
鳥はうつらうつらと眠そうです。
旅人は宿を探して歩き続けました。
それはいつものように、星空のきれいな夜でした。
posted by のっち at 21:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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