2007年05月20日

散文の断片「最後の始まり」

世界のどこかで、2人の人と1頭の馬が野宿をしていました。
1人は旅人で、もう1人はその地域の人間のように見えました。
夜空には星が顔を出しています。

2人は会話をしていました。
「星がきれいですね」
「ええ、星がきれいですね」

旅人に向かって、もう一人の人は言いました。
「あなたは荷物を私に任せてくれましたね。私を信じてくれたのですか」
「いえ、信じてもいませんし、疑ってもいませんでした」
「そうですか・・・、そうですよね」
「あまり人を信用して生きていないので」
旅人はこう答えました。
「性格が悪いんだよ。気にしないでね」
馬が言いました。

「私にも分かりますよ。裏切られるのが当たり前、人はいつか裏切るもの。
私はそう自分にそう言い聞かせることで、でたらめな毎日をなんとか乗り切ってきました。
・・・そして、そう考えている自分は醜いと思いました」
その人は吐き捨てるように言いました。

「そう生きていたんじゃ、死にたくもなるね」
と、その言葉に対して馬は言いました。
すると、
「相手にとって私はなんでもない存在なんです。なんだか不思議ですね。私にとって相手は特別な存在なのに、相手にとっての私は存在していないに等しいなんてね。
家族も友達も好きな人も、みんな同じでした。相手にとって私はなんでも無い存在、すぐに忘れ去られる存在でした」
とその人は言いました。
旅人は、
「人間関係なんて、そんなもんですよ。相手に望みすぎる方がいけないんです」
と答えました。
「今日は何時にも増して、言いますな。それも理解しがたい内容で」
馬はぼそっと言いました。


「人は思うように生きることが出来ない時、周りに誰もいなければ孤独になるのだと思います。
私の場合、誰からも愛されないまま人生は終わっていくんです。これは決定事項でしょう」
旅人に向かって投げ捨てるように言いました。
「決定事項か分かりませんが、そう簡単に誰かから愛されるようなものではないですよ。一生で一人でもいれば幸福です」
と、旅人は言いました。

「ところで、旅人さんはなぜ旅をしているのですか」
「何もいらないから旅をしているんです。ただそれだけです。人も物も何も望んではいません」
「何もいらない?」
「そうです。何もいりません。だからいつ死んでも構わないのです。精一杯生きることが出来れば、長生きする必要はありません」

何もない草原は静かです。
3っつの命以外、何も存在していないかのようでした。

「・・・あなたを信じてみようと思います」
「・・・はい??」
「これが最後だと思います。人を信じるのは」
旅人はやれやれ、といった表情をしていました。
相手からは暗くて見えていません。
「ねぇねぇ、これを最後にするの。やめた方がいいよ、ちゃんと相手を選んだほうがいいよ」
馬はしきりに言っています。

星は小さく輝いていました。
それは、優しい光なのか、冷たい光なのか、誰にも分かりませんでした。
posted by のっち at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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