2007年10月16日

散文の断片「何もないかのような大地の上で」


殺風景な大地の上を2人の人と1頭の馬が歩いていました。
1人は旅人でもう1人は旅人には見えない人でした。


その2人はこんな会話をしていました。
「私は思うのですが、届かないことを知っているのに、どうして人は誰かを望んでしまうのでしょうか」
「そういう感情がなければ、人間は深く分かり合うことはできませんよ」
「どうせ届かないのに、辛いだけですよ」
「届かないと決め付けることもないのではないですか?」
「そうですね、決め付けることはないですね。でも、少なくともこれまでの私の人生の中で想いが届いたことはありませんでした」
「それは、本当に想いは届かなかったのですか?」
「そうです。届きませんでした。それどころか・・・いえ何でもありません。人間が想い合う可能性なんて限りなくゼロに近いのではないですかね」
「そんな簡単に人は理解し合えませんよ。どんなに想い合っていても、気がつく機会を失えば、想い合うことは永遠に失われますよ。だから、想い合えた時はこの上なく幸せなのですよ」
空には青が広がっています。
怖いくらいの深い深い青でした。
「でも、最後に気がつくのは自分という人間が独りなのだということでした。誰からも愛されても、想われてもいなかったのです」
そんな会話を聞いていて馬は「やれやれ」といった表情をしていました。
「へぇ、悲しい人生だねー。それにしても、なんか陰気な2人だね。馬としても嫌になるよ」
馬はのんきに言いました。

殺風景な大地が続いています。
ここに小さな花でもあれば、世界は違って見えるのかもしれません。
「心の中に大切だと思える人がいれば幸せなことかな。たとえ想いは届かなくても・・・」
独り言なのか小さな声で旅人は言いました。

ひたすらに何もない大地が広がっています。
美しいとも汚いとも、何の感情も沸かないかのような大地でした。

「何もないですね」
「いやー、いつまで続くんだか」
旅の途中で出会った人と馬は言いました。
旅人は一人黙っていました。


しばらく進むと、遠くを見渡せる丘にたどり着きました。
そこから、2人と1頭はその先に広がる大地を眺めました。
夕陽がゆっくりと沈んでいきます。
闇が迫ってきています。
いや、夕陽が闇を連れてきただけかもしれません。

旅人ではない人が口を開きました。
「いつまで何もない大地を歩くのでしょう?」
旅人は答えます。
「その前に、本当に何もないのでしょうか?」
「あたりを見回しても何も見当たりませんよ。人も建物も道すらない」
「・・・そうですね、そういう意味では何もないですね」
最後にそう言うと、旅人は寝床の準備を始めました。
闇は確実に深まっていきました。
posted by のっち at 20:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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