2007年05月18日

詩の断片「無題」

ゲコゲコ鳴く蛙の声
網戸から聞こえてくる
そして風
風は静かにカーテンを揺らす

闇に惑える心は
今にも行き先を見失いそう
空回りの移動が
絶え間なく続いている

哀れかな
無力なまでに陥れられる
まるで悪循環
そうやって少しずつ
力は消えていく
命は消えていく

このままでは、あまりにも悲しい
この流れを変えてやりたい
今の気持ちは本物なのだろ?
前を向いたら暗闇だけ
後ろを向いても暗闇だけ
だったら、前に行ってやろうじゃん
全てを失う覚悟と共に
前に行ってやろうじゃん!

暗闇の中で誓いを立て
いつか来るかもしれない、光を目指した
posted by のっち at 22:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

詩の断片「一人ぼっちは風の色」

一人ぼっちは風の色
草原の緑が揺れる
一人ぼっちで寝転がる
草原の緑はひんやりと冷たい

空からは雨が降っている
雨に濡れても気にしない
濡れていることに気がつかない
一人ぼっちに気がつかない

ここには喜びも悲しみも楽しさも憎しみも
何もないんだ
何も意味を成さない
一人ぼっちは意味がない

心はいつも濡れていた
涙の変わりに濡れていた
誰にも気がつかれることなく濡れていた
一人ぼっちで生きた報い


そんなもんだ
そういうもんだ
posted by のっち at 21:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年05月06日

詩の断片「5月の空」

木々の緑は太陽の光を反射して
力いっぱい輝いていた
それを眺めるだけの自分には
あまりに緑がまぶしかった

静かな風が木々をわずかに揺らしている
その風は自分にも伝わる
その風は優しかった
その時、そう感じた

伝えたい
でもその前に
心の声を聞いてみよう

都会の喧騒は人間を消してしまう
耳を澄まさなければ
何の声も聞こえてはこない
風に揺れる緑の木々は
都会の喧騒を消すことが出来る

5月の空はただ青くて
このままどこにでも行ける気がした
どこかに行ける
そう思った
posted by のっち at 21:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月25日

詩の断片「春の終わりに」

夢から覚めたら、小鳥のさえずりが聞こえた
カーテンの隙間から太陽の光が漏れている
天井を見上げながら、少しずつ意識がはっきりしてくる
今日という1日のことを思った

狭い部屋の中で所在無い存在である自分
カーテンを全て開き、太陽の光を全身で浴びる
そうやって1日が始まる
どんな1日が始まるのだろうか

部屋の外で幸せが待っているかもしれない
部屋の外で悲しみが待っているかもしれない
達成感のある1日を過ごせることもあるかもしれない
なすすべなく、1日が終わってしまうかもしれない
自分に何かできるかもしれないし、何もできないかもしれない

春の桜は散ってしまい、その後には緑の葉っぱが顔を出していた
若葉は光の中でキラキラしていた
桜の花びらは、地面から緑の輝きを眺めていた
桜の花は散っても、桜の葉は輝いていた

1日が終わり、狭い部屋に戻ってくる
鏡に映る自分は元気なのか疲れているのか分からなかった
いろんなことがあり、いろんなことを知り、自分の姿がある
自分の姿を眺め、自分の存在する世界を眺める
時には目をそらしたくなる物事が顔を出す
それでも、心の中ではこんなことを思う
まだ、世界を好きだと言いたい
posted by のっち at 17:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月17日

詩の断片「樹海の雨」

樹海に静かな雨が降る
彷徨うだけの魂をむなしく濡らす
大地をゆっくりと冷やしていく
さっきまで咲いていた小さな花は
いつの間にかしおれてしまった
わずかな光を力にして咲いた花
寒さの前にはあまりに無常
色鮮やかな花びらは色褪せる

樹海に静かな雨が降る
彷徨うだけの魂をむなしく濡らす
森の深い深い闇の中で
悲しみは消えるような気がした
雨は心を濡らし続ける
樹海に光は届かない
心が暖まることは無い

樹海の静かな雨
止む気配はまったくない
いつか抜けられると信じていたのに
止まない雨は絶望を導いた
でも心のどこかで分かっていたんだ
止まない雨だと言うことを
出口に辿りつけないことを

もう出口は分からない
入り口も分からない
どこにも行くことが許されないのなら
ここで眠ろう
静かに降る雨のように
何に期待をすることもなく
ここで静かに眠ろう
何も望まなければ、安らかに眠れる

樹海の雨は魂を惑わせる
今日もまた小さな灯が消えていく
posted by のっち at 17:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月15日

散文の断片「赤信号」

世界のどこかで、旅人は旅をしていました。
肩には飛べない翼を持つ鳥が止まっていました。
この日は太陽が出ていて気温もほどよく、旅をするにはこれ以上に無いくらい、いい天気でした。

道を進むと、一人の人が赤信号の前で立ち尽くしているのを見つけました。

「こんにちは」
「こんにちは。これはこれは、旅のお方かな?」
「はい、そんなところです。それにしても、こんな所に信号があるとは思いませんでした」
「ははは。この地域は意外なところに信号があるのですよ」

信号の前でしばらく待ちます。
しかし、信号が変わる気配はありません。

「この信号、なかなか変わりませんね。いっそのこと、破ってしまっていいんじゃないですか」
「あなたは旅人ですから、この地域のことを分からないのかもしれません。信号を破るのは、人生を踏み外すのに等しいのですよ」
「なるほど。この地域では信号はそんなにも意味があるものなのですか」
「ええ。信号を守っていれば、人生を外れることはありません」
「それにしても、この信号は長いですね。いつまで赤信号なのでしょう」
「分かりません。実はあなたが来るずいぶん前から待っているのですが、なかなか信号は変わりません」
「もしかして、壊れているとか・・・」
「いえいえ、そんなことは絶対にありません。信号は完璧なのです」

日はいつのまにか傾き、夕暮れを迎えていました。
オレンジ色の空が、無常にも闇を引き連れて来ます。

「うーむ。もう日が暮れてしまいますね。私は別の道を探そうと思います」
「そうですか。恐らく遠回りになりますが・・・。まぁ、旅人さんらしい選択ですね」
「あなたは待ち続けるのですか?」
「はい。それが人生ってものです」

旅人は赤信号を横目にその人と別れました。
そして、肩に止まった鳥に言いました。
「もし、君に空を飛べる翼があったなら、信号なんて気にせず空を飛ぶのかな?」
鳥は旅人の顔を見て、首をひねりました。
「まっ、飛べたとしても自由とは限らないか」
太陽は完全に沈み、空には少しずつ星が顔を出しました。
「近道をして人生のゴールに辿りつくよりも、遠回りをして途中で死んだほうが人生だと思うのだけどね」
肩に止まった鳥はきょとんとしています。
「赤信号・・・。あの人にとってあの赤信号は何を示していたのだろう。耐えて待て、道を変えろ、休憩せよ・・・あるいは何の意味もないのかもしれない・・・」
旅人は星空を見ながら、そんな独り言をつぶやくのでした。
「人生か・・・。とりあえず、うちらは今日の宿を探そう」
鳥はうつらうつらと眠そうです。
旅人は宿を探して歩き続けました。
それはいつものように、星空のきれいな夜でした。
posted by のっち at 21:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月14日

散文の断片「谷に架かる古い橋」

前回の話はこちら

断崖絶壁に沿って、二人の人と一頭の馬が橋を探していました。
一人は旅人で、もう一人は断崖絶壁で偶然出会った人でした。
「なかなか、見当たりませんね」
「そうですね、もしかしたら橋はないのかもしれません」

見渡す限り深い谷が続いています。
谷の向こう側に行く事が出来ません。

人間の二人はこんな会話をしていました。
「どうしても谷の向こう側へ行かれるのですか?」
「はい、行こうと考えています」
「そうですか。もしも谷の向こう側に不幸が待っていたらどうしますか?」
「うーん、そうですね。もともと不幸のほうが多いだろうと考えていますから、よほどのことでなければ大丈夫ですよ。ところで、橋が見つかったらあなたはどうしますか?」
「さあ、分かりません。あなたと別れた後、すぐに死ぬかもしれませんし、もしかしたら生きるかもしれません」
「なるほど・・・」

少しの間の後、馬が話してきました。
「ねーねー、まだ死にたいの〜?」
「馬さんはずいぶんとストレートですね。もうずいぶんとダメな人間になってしまいましたからねぇ」
「ダメな人間?どうしてダメになったの、失恋??」
「ははは!それも一つではあるよ。でも私は一度の出来事だけでダメになるほど弱くはないのですよ。だけど、ダメになりかけて立ち直ろうとする瞬間にまた事件が起こるのです。それを何度も繰り返してきました。これではどうしようもないよ」
「いわゆる、踏んだり蹴ったりって奴?」
「ははは、馬さん。その通りですよ。苦しむだけ苦しんで、何を得たのか分からないのですよ」
「何も得てないって富とか名声とか?」
「いやいや、そういうものではありませんよ。私は誰かと心で理解しあうことが人生だと思っていました。けれども生きてきて誰とも分かり合うことはできませんでした。そうやって人は死んでいくのかもしれませんね」
「ふーん。そうなんだ」

旅人はそんな会話を聞きながら谷の向こう側の大地を見ていました。
それはこちら側とあまり違いがないように思えました。

「あれ、あれって橋じゃない?」
見ると遠くに橋が見えました。
近づいてみると、ずいぶんと古ぼけた橋でした。
「ひゃーずいぶん古い橋だね。渡って壊れたりしないかな」
「うん、その危険はある。でも、この汚くてボロボロの橋が希望の橋なのだね」

旅人はもう一人の人に聞きました。
「どうしますか?この橋を渡りますか?」
「どうせ死ぬのなら橋を渡ってからでもいいですね」
もう一人の人はそう言うと、続けて言いました。
「じゃ、旅人さんと馬さんが先にお渡りください。荷物もあると橋が重さに耐えられないかもしれないので、私が運びますよ」
「そう言っていただけるのなら、お願いしてもよろしいですか」
「もちろんですよ」

まずは旅人と馬が橋を渡りました。
歩くたびに橋はゆれ、恐る恐る渡りました。
続いて、残っていた人も荷物を持って橋を渡ろうとしました。
しかし橋の真ん中で立ち止まってしまいました。
「あれ?どうしたの?」
断崖絶壁でたたずんでいた人は大粒の涙を流していました。
旅人は橋のいたるところがぎしぎしいっていて、もうすぐ崩れてしまうのに気がつきました。
「あぶない!早くしないと橋が崩れる!」
大声で旅人は言いました。
しかし、橋の真ん中から動こうとしません。
相変わらず泣いたままです。
「何かあったのですか?」
旅人は出来るだけ優しい声で言いました。
すると、橋の真ん中の人は答えました。
「思い出しました。この橋は大昔に私が作った橋でした。もともと私は谷の向こう側の人間でした。ですのでこの橋は谷の向こう側から渡るために作った橋でした・・・」
ここで静かに深呼吸をしました。
「・・・当時は希望の橋でした。しかし、今となっては禍をもたらした忌まわしい橋です。ここで橋とともに人生を終えるのも滑稽ですがふさわしいかもしれません」
少し皮肉をこめて、その人は言いました。
すると、旅人は言いました。
「別にあなたが死ぬのは勝手です。ですが、申し訳ないですけど荷物だけはこちらに運んでいただけないでしょうか?」
「うわー、冷たい言葉」
と馬は独り言を言いました。
橋の真ん中で立ち止まった人は泣きながら荷物を持って、橋を渡りました。
「旅人さん、これでいいでしょう。橋を渡れてよかったですね。では、私はこれで」
と戻りかけた瞬間、橋が崩れ落ちました。
あまりにもあっけなく、谷の闇に吸い込まれていきました。
それをどこかぼんやりとした目で戻ろうとした人は見ていました。
「・・・橋が崩れてしまった」
絶望と憎しみがこもっていますが、なぜか無感情に聞こえる声で、死のうとした人は言いました。

太陽は沈みかけていて、夕焼けが見えました。
空は真っ赤でした。
暗闇の迫った真っ赤な空でした。
「・・・あの時もこんな空でした」
「あの時?」
「橋を完成させて、橋を渡った時のことです」
「あの橋は、あなたがいつか戻るのを待っていたのではないですか?」
「ははは、御伽噺みたいなことを言いますね。そうであったなら面白いですが・・・。でも、あの頃とはもう何もかも変わってしまいました」

太陽は沈んでいきました。
その様子をしばらく眺めていました。
気がつくと星空が顔を出していました。
「星空がきれいですね。星空なんて久しぶりに見ました」
「これからどうしますか?」
「分かりません。でもなんかしばらく星空を眺めたいです。あなた達は?」
「もう夜ですし下手に動くのは危険です。ここらで野宿したいのですが、星を眺めるのに邪魔になりませんか?」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「それならよかったです」

旅人は荷物を出して野宿の準備を始めました。
もう一人の人は星空を眺めていました。
その真ん中で馬は眠そうにあくびをしてました。
posted by のっち at 17:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月17日

散文の断片「暗闇さん」

冷たい雨の降りしきる中、一人の人と一頭の馬が旅をしていました。
「ひどい雨だ。冷たくて凍えそうだよ」
「どこか雨をしのげる場所があるといいのだけど・・・」

そう言いながら進んでいくと、洞窟が見えてきました。
「ちょうどよかった。洞窟であまやどりをしよう」

旅人と馬は洞窟に入りました。
洞窟の中は真っ暗で何も見えません。
雨音だけが洞窟の中に響いています。
真っ暗では身動きが取れないので、旅人はランプを灯しました。

洞窟には小さな明かりが灯されました。
「早く雨やまないかな」
「そうだね、止まないかな」
雨音を聞いていると、しばらくはやみそうにありません・・・。

少しするとどこからか、人の駆ける音が聞こえてきました。
「なんか音がする。だれかいるのかな?」
駆け音はだんだんと大きくなってきました。
そして、大きな声が聞こえました。
「灯りは消して!お願いだから早く消して!!」
ランプを声のする方に向けると目の前には小さな子供が立っていました。
旅人は言われるがまま、明かりを消しました。
「あーあ、せっかくの明かりを消しちゃった」
馬は言いました。
それを聞いた子供は、馬の方をにらみました。

旅人は聞きました。
「ねぇ、君。どうして明かりを消して欲しかったんだい?」
小さな子供は言いました。
「だって、暗闇さんが死んじゃうから」
「暗闇さん?」
「そう、暗闇さん。すぐそこにいるよ」
旅人は辺りを見回しました。ですが、真っ暗で何も見えません。
「・・・何も見えないけど」
「見えないの?あぁ、見えないのかも。父さんも母さんも見えないって言ってたから」

「君には暗闇さんが見えるんだ」
「そうだよ。暗闇さんとお話するの。暗闇さんはとってもかわいそうなの」
「どうしてだい?」
「だって、暗闇さんは一生懸命生きてるんだよ。だけど、それがたくさんの人を悲しませてしまうんだって。
それが苦しくって苦しくって仕方がないんだって・・・」
小さな子供は悲しそうな声で言いました。

「暗闇さんはいつも一人ぼっちなんだ。誰に見てもらうこともないし、誰からも気にしてもらえないんだ。
「だから暗闇さんとお友達になったんだ」
小さな子供は嬉しそうに言いました。
「そうなんだ。きっと暗闇さんは喜んでいるよね」
「うん。そうだといいなぁ」
小さな子供はにっこりと笑いました。
その時、洞窟の中は少し温かく感じました。
気のせいかもしれませんが、確かに温かく感じました。

洞窟の外では雨は相変わらず降り続いています。
ただ変わっていくのは、だんだんと暗くなっていくことでした。
「そろそろお家に帰らなくて大丈夫かい?」
「そろそろ帰らないと・・・。旅人さん、明日もここにいる?」
「分からない。雨のままならいるかもしれないし、晴れていたら出発しているかもしれない」
「そうなんだ・・・。明日も会えるといいな。バイバイ」
そう言って、小さな子供はお家へと帰りました。

小さな子供がいなくなると、馬は言いました。
「なんなのだろうね。暗闇さんって」
「そうだね。少なくともいえるのは、優しい生き物だってことだよ」
「でも人を悲しませるのでしょう?」
「いや、きっとそれは違うのだよ。悲しい出来事があって暗闇さんがやってくるだけで、暗闇さんが悲しみの原因ではないよ。
暗闇さんは悲しいことを見えなくすることで優しく包むことができるんだよ。光にはそれができない・・・。」
旅人は心の中で(きっとそうだよ暗闇さん。だから、安心して大丈夫だよ)と言いました。
「いつでも悲しみに向き合うことのできる人間なんていないんだよ」
馬は「ふむふむ」と頷きながら聞いていました。

小さな子供がいなくても、旅人はランプを使おうとはしませんでした。
真っ暗な洞窟の中には旅人と馬の声が響いています。
暗闇さんはその声を聞いていたのかもしれません。
洞窟の外は闇で包まれていました・・・。
posted by のっち at 07:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月14日

散文の断片「花畑の住人」

どこかの道なき道を一人の人と一頭の馬は旅をしていました。
あるとき、美しい花畑にたどり着きました。
「うわー、きれいだな」
その人は思わず声を上げました。
「うん、きれい。これまで見た花畑の中でもかなりの上位だよ」
と馬は言いました。

花畑を進んでいくと、一つの小さな家がありました。
その家の前では一人の人が何やら作業をしていました。
「こんにちは」
と旅人は声をかけました。
その人は少し驚いたような様子で、
「こんにちは。こんな場所に人が訪れるなんて珍しい」
と答えました。

旅人は聞きました。
「あなたはここに住んでいるのですか?」
「ええそうですよ。花畑で静かに揺れる花を見ながら生きていくのが夢だったのです」
「へー、面白い夢ですね」
「そうですね。変わった夢かもしれません」
「いつからここに住んでいるのですか?」
「そうですね。ずいぶんと昔のような気がします」
「一人なのですか?」
「ええ、一人です。本当は誰かいることに越したことはないのですが・・・。でも、夢のような場所に出会えて嬉しく思います」

「じゃ、今は幸せってことだ」
馬は嬉しそうに言いました。
すると、その人は少し伏目がちに言いました。
「いえ、その、実はそうではないのです」
「どういうこと?」
「本当は花にこちらを向いてもらいたいのですが・・・」
その人は悲しい声で言いました。
「花は違う方を向いているのです。こちらを振り向いてはくれません。たくさん花を想っているのに通じることはありません」
よく見ると、花はその人の家の方を向いてはいませんでした。
「ふーん、花に対する想いは一方通行だね。こんなに近くにいるのにね」
馬は言いました。
「・・・ええ」
短くその人は答えました。
花畑を愛おしいような悲しいような、そんな目で見つめていました。

柔らかい風が吹きました。
花々は静かに揺れました。

「でも、あなたはこの花が好きなのですね」
旅人は優しく聞きました。
「・・・ええ」
短くその人は答えました。
「いつか、あなたのことを見てくれると信じているのですか」
「ええ信じています。でもこちらを向いてくれなくても構いません。そんな気持ちです」

旅人の目に映る花は、どこか幸せそうでした。
それは、花畑に住む人がそうさせているような気がしました。
でも、これは旅人が勝手に感じたに過ぎません。
本当のところは何も分かりません。
旅人に出来たのは、花があの人のことを見てくれるよう願うだけでした。

「それでは、そろそろ行こうと思います」
旅人は言います。
「そうですか、お元気で」
花畑の住人は答えました。

そうして、旅人と馬は出発しました。
花畑の住人が見えなくなって、馬は言いました。
「人ってみかえりを求める人ばかりと思っていたけど、そうでない人もいるんだね」
「そうだね。でも、みかえりって言うのは言葉が悪いけど、少しでも返ってくるものがないと、不安にもなるし寂しくもなるよ」
「へー」
「嫉妬や怒りだって、人の立派な感情さ。ありすぎると困るけど、そういうものを持っているのが自然だよ」
「じゃあ、あの人はみかえりを求めないから幸せなのかな?」
「いや、それは違うと思う。人は心の底から望むものになかなか出会えることはない。出会えたとしても、それが手に入るとは限らない。だから、あの人は幸せなのだと思うよ。だって、心から望むものと出会えているんだから」
「ほーほー、なるほど」
「・・・ちゃんと聞いてるの?」
「聞いてるよ、聞いてますとも。ねー、人間って大変だね〜。君は心から望むものっていうのに出会えたの?」
「ノーコメント」
「なんだよ、教えてくれたっていいじゃん。ケチ・・・」
「はいはい、まぁいいさ」

だんだんと花畑は小さくなっていきます。
遠ざかる花畑を背にしながら、馬は言いました。
「ねぇねぇ、この旅は一方通行かな?」
「どうして?」
「いや、なんとなく」
「それは分からない。時々不安で仕方なくなるけど、進むしかないよ」
「ふーん。進むしかないんだ。たとえ一方通行でも?」
「そう、一方通行でも。行けるとこまでは行くつもりだよ」
「そっか。とにかく言いたいのは、あまりこき使わないでくれよ」
「分かってるよ。大丈夫」

道なき道は果てしなく続いているように思えます。
いろんな感情を抱きながら、旅人の旅は続くのでした。

posted by のっち at 23:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月13日

散文の断片「鐘のある塔」

ある深い深い森がありました。
その中を一人の人が馬に乗って旅をしていました。

「ずいぶんと森は続くね」
「そうだね。ずいぶんと深くて暗い」
「早くこんなところ抜け出したいよ」
「でもまだだいぶかかりそうだね」

深い森の中でどこからか鐘の音が聞こえてきました。

「鐘の音だ。音のなるほうに人がいるかもしれない」
「それにしてもきれいな鐘の音だね。とても優しく感じるよ。いい村があるかもしれない」
「うん、こんな美しい鐘の音を聞ける村なんて幸せだね」

音のする方に進むと、塔がありました。
塔のほかには周りに何もありません。

「さっきの鐘の音はここから聞こえたのかな」
「たぶんそうだよね。なんでこんな場所に塔なんてあるのだろう?」

塔には入り口のような扉がありました。
その扉に手を触れると、また鐘が鳴りました。

「鐘が鳴るってことは、ここに誰かいるのかな」
「泊めてもらえると助かるね。森で野宿は嫌だよ」

その人は入り口をノックしました。
誰も出てはきません。
何度かノックしましたが、何の返事もありません。

思い切ってドアノブをまわしました。
鍵はかかってはいませんでした。
扉はにぶい音を立てて開きました。

「ごめんください」
中は薄暗く、ひっそりとしていました。
塔の上へ上がる階段がありました。
「ちょっと上を見てくるよ」
その人はそう言うと、階段を上っていきました。

階段を上るとそこには大きな鐘がありました。
小さな窓からは僅かに光が入ってきていました。
外を見ると果てしなく森が広がっていました。

その人は鐘の周りを見渡すと、一人の人が倒れているのが見えました。
近づいてみると、もう息はしていませんでした。

また鐘が鳴りました。
その響きはこれまでの優しく美しいものと違って聞こえました。
苦しくて悲しくて、何かを伝えているかのような音でした。
ずっと鳴り響いています。鳴り止む気配はありません。
それはその人を安らかに眠らせて欲しい、と鐘は訴えているように感じました。

「この人のお墓をつくれば、君は鳴り止んでくれるのかい?」
そう旅人が言うと、鐘は安心したように鳴り止みました。
窓からはさっきよりも光が満ちているような気がしました。
旅人は思わず鐘に手を触れました。
すると、金属の持つ冷たさよりも、命の持つ暖かさを感じたような気がしました。
「君は暖かいんだね。この人にもきっと伝わっているよ」
旅人はそう独り言を鐘に向かって言いました。
鐘はとてもきらきらしていました。

旅人はその人を土に埋めました。
土を掘っていると鐘の音が時々響いてきました。
そのときの息のない人は、悲しげそうな目の中にも安らぎをみせていたような気がしました。
そしてその人は鐘の音と共に土の中に眠りました。
旅人はどっと疲れたようにその場に座り込みました。
もう鐘は止んでいました。

「悲しみって目を閉じたら見えなくなるのかな?」
馬は聞きました。
「どうしたんだい、急に」
旅人は答えます。
「あの人とても悲しそうな目をしていたから」
「んー、死んだ人間は分からない。でも生きている限りは目を閉じても悲しみは瞼に映ると思う」
「ひゃー、じゃ人間は生きてると悲しみから逃げられないね」
「ははは、まあね。逃げるつもりはないけど・・・」

その後、塔の中で一晩過ごしました。
そして、朝を迎えました。
森の中は霧が立ち込めています。
どの方向に進もうか迷いながらも、出発しました。

「それにしても、あんなにきれいな鐘の音なのにもったいないと感じるよ」
馬は言いました。
「どうしてだい?」
旅人は答えます。
「だって、たくさんの人に聞いてもらうことができないのに鳴っているんだよ」
「世の中、そううまくはいかないものだね。それに・・・」
「それに?」
「あの鐘に心があったとして、多くの人に聞いてもらおうなんて思ってはいなかったんじゃないかな?」
「どうして?」
「なんとなくだけど、あの倒れていた人にだけ聞いてもらうことができればよかったんじゃないかな?」
「ふーん、君は相変わらずな捉え方をするね。じゃ、あの人は何者さ?」
「そうだな・・・。世の中は謎だらけだよ」
「なんだい、それ。答えになっていないよ!」

森の中は静かです。
その静けさは恐怖すら感じさせました。

「もうあの鐘は鳴らないのかな」
「分からない。でも、役目を終えてしまって鳴らないのかもしれない」

これから先、もう鐘が鳴ることはなくなりました。
鐘の音のない森の中を人と馬は走っていました。
いつ抜けられるのか分からない森を、いつか抜けられると信じながら・・・。
posted by のっち at 20:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩・散文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。